第三回

イノベーションと成長を加速する

リーダーシップ

GEの田口です。よろしくお願いします。

GEと日本との関わりは100年以上あり、1886年に旧大蔵省造幣局に発電装置を納入したのがはじまりです。日本では4500人ほどの従業員が働いており、エネルギー事業、航空事業、ヘルスケア事業、金融事業などさまざまな事業を展開しています。

GEの企業文化を一言で言うとしたら、performance driven culture。GEのperformanceはどうやってはかられるかというと、狭義の意味の業績成果とGE valueとで測られる。valueとは価値観ではありません。行動様式であったり、コンピテンシーです。行動におとすことが大事なんですね。
みなさんの会社にも価値観があると思います。いろいろな会社に社是であったり社訓というものがありますが、GE valueはお題目ではなく行動として具現化することが求められます。Performanceがその年に遂行した業績、つまり「何を」にあたるとすれば、valueは、「どのように」つまり「how」の部分にあたります。GEの特徴は、抽象的な表現で社員に行動をもとめないことです。具体的な行動におとせるレベルにしてメッセージを発信します。行動にあらわしてperformanceをあげることで、社員がどんどん成長できる正のスパイラルがGEにはあります。

GEの文化を構成する要素の一つに、「実行する」ということがあります。「有言実行」が尊ばれます。皆さんの会社にも目標管理制度という仕組みがあると思います。年の初めにたてた目標にたいして、年の終わりに到達できたか評価される、そういうシステムですが、これはもともとGEで開発された考え方です。ちなみに戦略分析の際に用いるSWOT分析、これもGEが開発したもの。9割以上の社員が知りませんが(笑)いずれにしても、コミットした目標を達成するという「実行」、やり抜くことがとても重要視されます。

GEにはこうしたツールの他に様々な経営ツールがあり、そのほとんどをお客様企業に開示しています。「こんなに教えちゃっていいの?」とおもいました。ノウハウの流出にならないだろうか?実はノウハウを全部開示しても、仮にGE社員を引き抜いてGE流の仕組みを定着させようとしても、GEをコピーすることはできません。GEの社員と文化がGEを作っているのであり、まるごとコピーすることは、おわかりのように不可能です。他社のベストプラクティスをいかに自社に適用させるかということが重要なのですが、その過程での「翻訳作業」をスキップして、「コピー」したがる日本企業がまだ多いです。

Q:リーダーシップは先天的なものか後天的なものか

リーダーシップでは、”born or made”はおおきなテーマですね。たしかに資質、つまり生まれつきの才能をもっている人はいる。だけど、それだけでリーダーだ!となったら、ナチズムにつながってしまう。そうじゃなくて、GEは”made”の立場をとっています。”select and develop”。日本の会社は平等主義。「底上げ」という言葉が好き。年次管理、教育投資もうすくひろく。GEはちがう。100人従業員で1000万の教育投資があれば、ひとり10万円ずつの教育ということは絶対しません。まず上位の10人をえらんで、さらに3人にhighlightして、300万ぐらい(ときによっては600万)かけて教育します。
選んで選んで、集中投下する——仮にGE式としましょう。ひろくうすく投下する——日本式としましょう。みなさんは、どちらで働きたいですか?日本式がいい人?
(挙手)
意外と少ないですね。じゃあ、GE式の人。
(挙手)
ではそのまま、3年たっても教育研修のお声がかかりませんでした。それでもGEで働きたいですか?GEでは3〜5年働いても教育の声がかからないということは、上位10%にはいっていないということ。だから、3〜5年の退職率が一番高い。逆に3年連続で上位10%にあがっている社員がいたら、ほとんどの場合、promotionさせます。GEは登竜門形式の教育。研修を先に受けさせて、そのあとを現場と人事で観察して、OKだったら昇進させる。おおくの日本企業は、課長になったらこれやりましょう、部長になったらこれやりましょう。GEにはそういうものはほとんどと言って良いくらいありません。GEの昇格は自動車免許の取得と似ています。リーダーシップ研修にいくということは、仮免許をとりにいく感じ。そのあと現場に戻って実地検証です。そして、昇格判定。
だからGEでは研修によばれたら、社員は「I’m happy」と感じます。ですから研修の第一声は「おめでとうございます!」。お祝いの言葉から研修がはじまるんです。”you are nominated and selected”——アカデミー賞とおなじです。いろんな事業部門から推薦がある。次のプロセスでselectionがある。Selectされて、それでやっと研修にこられる。研修に参加することはとても名誉なことだし、会社が自分をちゃんと認知してくれていると社員は感じるわけですね。高揚した状態で研修会場にやってくる。
日本企業で研修をやると、「忙しいのに面倒くさいなぁ」となる。減点式で上にあげていく。○マークじゃなくて、×マークで勝負をする。GEは○マークで判断します。だから、古傷をもっていたり、いわくつきの社員もいる。GEは「two strikeまではいい、そのかわりにfull swingしろ」という。おもいっきりやって、そこから何かを学び取れ。失敗にたいして寛容な組織です。リーダーを育成するうえで重要な環境ですね。failure tolerant leadership。失敗をやってみろという気概が大事です。

ここでのおおきなポイントは、「成功か失敗」という基準軸を、社員の評価に対して企業がもちはじめると何がおこるかということです。失敗したらダメ、成功したらよし。みんな失敗を極端に恐れるようになるだろうし、一番よくないことは、個人の成功に集中しようとします。自分だけ成功すればいいや、とおもっちゃう。ある日会社で同僚から相談された。困ってんだよねえ・・。どうした?いやね、部長からすぐに資料をつくるようにいわれたんだけど、肝心のデータがどこにあるかわかんなくてさ。——そのデータ、オレのPCにはいってる。相談を受けた同僚とはつぎの課長争いをしています。みなさんならどうしますか?——そうか、大変だな。で、おしまい。こんなことになってしまいますね。判断狂っちゃうよね。コラボレーションがおこらなくなってくる。一匹狼同士の争いになっちゃう。チームワークが生きない、業績が上がらない。

GEはチームで業績を上げることに重きを置いていますし、文化や風土としても結構wetさをもっています。日本企業がかつてもっていたものです。GEは世界中の企業をベンチマークしているんですが、日本企業からたくさん学ぶモノがあった。そのひとつはteam。GEでは、マネジメントチームそのものをそのまま抜きだして、いっしょに研修をする取り組みをしています。大抵のトレーニングというのは、部署から1人だけくるというものですが、GEではマネジメント層をそのままホテル等に缶詰めにして集中的に研修をする。非常にチームワークを重んじます。個人主義的な人間は徹底的に排除する自浄システムがある。

GEのリーダーシップとはなにか。私が教えるときには”It is all about the influence skill.”——「影響力」とこたえています。リーダーシップというのは”most studied, less understood”な分野といわれています。世の中にはさまざまな定義ありますが、それ自体が重要ではなくて、リーダーシップにたいして「自分なりの理論をもつ」ことが大切ですね。リーダーシップ持(自)論です。GEではInfluencing skillが重要です。GEにも役職者以外の社員、直属の部下をもっていないひとがおおい。だけど現場ではプロジェクトがたくさんはしっていて、関係各所にたいしてポジションパワーをつかわずに仕事をすすめてもらうよう働きかけないといけない。——いかにひとに影響をあたえられるか。職務権限ありますね、決裁権の問題とか。GEには権限を越えた職務があたえられる。すると、権限と職務との間にギャップがうまれます。うめるためになにをしますか?上司、同僚や部下じゃない人、自分の周囲360度にいる人に動いてもらわなければいけない。パワーをつかって動かす場合もあるかもしれないけれど、ほんとうのリーダーシップは、followerが喜んでついてくるような状態をつくりだせることですね。このスキルを身につけるための研修も様々な形で整備していています。

Q:膨大な費用をかけた研修をうけた社員が辞めないようにどうしているか

トレーニングには莫大な費用をかけていますから、当然トレーニングをうける社員に辞められないよう、最大限の努力をはらいます。トレーニングもretentionとtotal compensationの一部です。GEの給料は外資系水準で比較すると、高い方ではない。だけど自己成長の速度がものすごい。GEという大きなくくりのなかで、事業、ファンクション、地域の3つの変数でキャリアが詰めます。グループ間をうつることで、ある意味、転職を繰りかえすことと同じ効果が得られるわけです。企業として、社員に対して自己成長の機会を絶えず提供し続けられることが大切です。

Q:研修の選抜基準は

トレーニングへの推薦と選抜は毎年1月にはじまります。その前の年の12月に社員が提出した自己申告内容を、2月に上司が見ます。部門レベル、会社レベル、地域レベル、そしてグローバルレベル。会長のイメルトのところに結果がいくのが、GWのちょっと前——4ヶ月かけて選考するわけです。オリンピックの予選会みたいなものですね。

Q:できない部下がおおいチームのリーダーになったとき、どう評価されるか

チームメンバーで仕事ができない社員がいて成績が上がらなかった——それはもちろんリーダーの責任です。できない社員がいるなら、coachingするとか、個別目標を握り直したりとか、それでもダメならチームからだしてしまうとか。簡単にクビをきれます、という話じゃないですよ。ダメだダメだといって4人、5人もきったら、その分仕事を肩代わりするのは当のリーダー。これでは業務がまわらないですから。年初につぎの経営戦略を考えて、経営目標を達成するためにどんな組織構造がいいかきめます。戦略がかわれば当然、組織が変わります。すべてはリーダーの責任です。

GEは1200億円程度を「人」に投資します——全ての日本企業の教育投資額をあわせたものと等しいと聞いています。パフォーマンスは、業績とvalueを50:50で評価します。全世界で30万人程度。売上高15兆円程度、純利益が1兆円程度。2008年に海外の売り上げがUSを越えました。世界中から選抜されて開催されるリーダーシップ・プログラムの参加者もUS:non-US=50:50。

GEで働いている上位層は、よりチャレンジングな仕事をもらえるかどうか、に重きをおいています。アメリカでおこなった調査、年収10万ドル以上の人に「転職するうえでなにを大事にしますか」とアンケートをとった。

 【アンケート結果】
 1番目− CEOの考えに共感できるか
 2番目− 会社の文化に共感できるか
 3番目− お金は3番目。

GEの人材登用は原則として内部登用型です。典型的なアメリカ企業とちがうところですね。高いポジションになればなるほど、内部登用です。だから、GE歴20年です、30年です、という社員はざらにいます。拠点は全世界100カ国以上にあるし、組織もマトリックスで複雑。世界各地をめぐって、グローバルリーダーに必要な人脈や経験を積むには時間がかかるからです。

不確実な情報の中でリスクをとってdecision makeする勇気をもつ。成功の可能性が7割くらいあれば、チャレンジさせる。あるポジションに社員をassignするときもおなじです。ダメだったら、もどせばいいだけの話ですから。とにかくやらせてみる。修羅場hardshipの経験が、人を育てる最大の出来事です。次に重要なのは、重要な他者との出会い。こうした経験を意図的に積ませるような仕組みがGEにはたくさんあります。

アメリカの調査機関が「どういったときに能力が開発されたと思いますか」というアンケートをとった結果、7割が仕事を通じて、2割が重要な他者との出会い、残りの1割が研修でした。ということはOn the Job Training、どういう仕事をやらせるか、どういう仕事のopportunityをあたえるか、これが重要。high performerが会社を辞めていく大きな理由は、challengingな機会がないこと。ゆえに、GEでは高い目標をあたえてchallengeさせます。このChallengeもGEの文化を語るひとつの大切名キーワードです。

GEは1956年、米国で初めての企業内大学をつくりました。それがクロトンビルです。役割はGEのビジネスの成長と競争力にgloballyにインパクトを与えること。ではどうやって与えるか。それはタレント・パイプラインの維持、すなわちリーダーのポジションに、とぎれることなく、どんどん優秀な人材を送り込めるように育成して、そのプールを作る。常にSession Cで対象社員をhighlightする。高ポジションの社員は必ずこう問いかけられます。「いまこの瞬間おまえが死んだら、だれを後任にするんだ」それからもう一つ。「じゃあ、2年後、3年後の場合はだれなんだ」その問いかけでidentifiedされた社員には徹底したトレーニングをします。ワークショップやトレーニングをすることが目的ではまったくありません。事業目標を達成するための人材を育成することが目的です。

かつて、CEOのジャック・ウェルチはマーケティングの力をまったく信じていませんでした。なぜなら、No1、No2戦略。——圧倒的な優位性をもった商品をもっていれば売る必要はないだろう。ジェットエンジンは全世界に3社しかありません。が、だんだんとサービスのコモディティー化がすすんできた。たとえば医療機器のMRI、フィリップスやシーメンス、東芝メディカルなんかがおいかけてきた。次に必要なのはマーケティングとセールスの力。イメルト就任後はこの2つに焦点をあてる教育も増えてきました。お客様にもGEの教育プログラムを開示し、トレーニングも提供する。そうしてお客様企業に成長していただく。結果、GEとの取引高もあがるでしょう。結果としてGEも成長するという論理です。

リーダーシップは管理職になる前からおしえます。管理職だけでなく、全社員にとってリーダーシップは必要になるからです。「マネジャーはリーダーである必要はあるが、リーダーはマネジャーである必要はない」ということばがGEにはあります。

あるとき、お客様から研修中に質問がありました。「全社員にリーダーになることを期待するのはおかしいんじゃないか」——私は「逆に質問申し上げますが、なぜ新幹線は速く走れると思いますか」と尋ねた。「むかしは機関車が煙をもくもく吐きながら、その他大勢の車両をひっぱっていました。それが、いまの山手線などを走っている車両になると何両かおきにモーター車があります。——これが通常の会社のリーダーです。GEは新幹線です。全車両にモーターがついています。だから速く走ります。しかも、目指すべき方向、線路はまっすぐ敷かれていますからおもいっきり走れるわけです。」——こう回答さしあげました。

GEでは人事評価において社員を9つのセグメントに分けます。ポイントは最優秀社員と非優秀社員を最初にみきわめて、それぞれに対して具体的なアクションをとる。最優秀社員のうち、とくにリテンション・リスクの高い人を特定し、辞められないように各種retentionをかける。優秀な社員その人ひとりが抜けることのほうが、その他10名辞めることより影響が大きいからです。

 【GEのvalue】
 external focus 外部環境への関心
 clear thinker 明快な思考
 imagination 創造性
 inclusiveness 包容力
 expertise 専門性

valueはhow「どうやって」業績を達成するかの部分です。
clear thinkerとはどういうことか。GEはマトリックス組織構造になっており、地域を横軸、事業を縦軸にしています。bossが2、3人というのは当たり前。民族も宗教もちがう大勢の社員と同時多発的にコミュニケーションをとっていく。だから、頭のなかをclearにしてmessageを発信し、意思疎通する必要があります。
imagination。エジソンがつくった会社ですし、innovationの核となるimaginationは重要です。創造するだけじゃダメで、産まれたアイデアを実現・実行するためには勇気が必要です。

GEには強固なcultureがありますが、コアの部分は変えず、環境の変化に対応できるよう常に文化の変革を心がけていますその中心的な役割を果たすのもクロトンビルです。GEに入社してくる人たちのオリエンテーションで必ず言います。「入社してしばらくたつとGEのcultureを評価したがります。が、『いい』か『わるい』か、あるいは『正しい』か『間違っている』かで判断しないでください。『合う』か『合わない』か、あるいは『好き』か『嫌い』かで考えてください」。お風呂でも熱いのと温いのとに好みがあるのと同じように、GEのcultureも好き嫌いです。合う人にはとても心地よいですが、合わない人にはつらい組織です。本日はここまでです。