speaker:上條憲二(株式会社インターブランドジャパン エグゼクティブディレクター)

date & place:2010.9.18 東京銀座資生堂ビル9階にて

いまから話します内容は、ブランド戦略についてです。

最初にInterbrandってどんな会社なのかご説明しましょう。今から30数年前にロンドンで誕生しました。現在、世界で1,300人ほどが働いています。グローバルのいろいろな企業のブランド戦略を立案しています。当社の一番の特徴は、「ベストグローバルブランド100」というブランドの価値を金額換算したランキングです。毎年1回、グローバルで発表しています。また、日本のグローバルブランドランキングも発表しています。

日本国内では、企業のシンボルマーク、商品、サービス、企業のネーミングなど、たくさん考えています。とは言いましても、チームメンバーは多国籍。いろんな視点から評価するためなんですね。あとはパッケージ。たばこ、消費財などのデザインとか。また、お店などの、顧客がそのブランドを感じるタッチポイント、ものが見えるところのブランディングのお手伝いもしています。さらに、ブランドについての勉強会も行っています。自分たちのブランドとは何か、どこが他社と違うのかなど、社内で研修をやって感じてもらう。ブランドを守るためのガイドライン、ルールブック集、なども作っています。

広告会社やビジネス系のコンサルでもない。その間の位置。細かくは提案しないが、大まかなところをコンサルティングする会社です。

ブランドとはなにか

企業のシンボルマーク。文字に形がついて色がつくと、たちどころに「A社」とか、「B社」とか見分けがつく。わたしたちは、文字を読んでいるのではないんですね。シンボルをみて、頭の中のイメージを結び付けて感じるわけです。つまりブランドは文字じゃない。A社のマークを見ると、その会社のお店の雰囲気とか商品とか、商品の味とか、そういったものを思い浮かべる。

製品は工場で作られます。そして、店舗に並べられると商品になります。しかし、ここまではブランドではない。ブランドとは「頭の中にあるもの」なんですね。商品とかお店とかの背景にある何かがが蓄積したもの、それが行動を喚起するわけです。「あの店にいってみたいね」「あれを買いたいね」と思わせるんです。

『ブランド』というと、ネーミングとかシンボルデザインとか広告のコピーと思われるかも知れませんが、そうではなくて、「頭の中に存在する評判」のことです。他人の頭の中だから、外からは操作できませんし、簡単にはできあがりません。そして、いったん壊れると、再生するのが難しい。

頭のなかにハンコをおす

ブランドを創るということは、頭の中にハンコを押していく作業、価値・意味を伝えていく作業のことです。知識があっても勉強ばっかりしていてもだめと、そのひとの人となりや考え方が重要と山本先生がいっていましたが、まさにそれは『ブランド』だと思います。人で例えると、その人らしい価値があって初めてブランドになるわけです。

 

「安い」とか「機能性がいい」とかは分かりやすいですね。でも真似しやすいんです、こういう左脳的なものは。そうではなく、右脳的な情緒を動かしていくものがブランドといっていいと思います。日本のメーカーはいいものをつくればいい、と考えている会社が実際のところ多いのですが、それだけだと強いブランドにはならないんですね。それにプラスして好きになってもらう力。左脳と右脳の一緒になったところにブランドは存在します。

 

モノを買う時を思い出してください。例えば、クルマなど。最初はちょっと関心をもつだけですが、そのうち少しずつ、頭の中での存在が大きくなってきます。機能だけなく、情緒的な部分に惹かれるようになる。そして、全体として満足度が高まっていく。個別の最適ではなく、ひとつのストーリーとしてそのブランドが好きになるように工夫が必要です。相手の立場に応じて、言葉をかえながらひとつのことを伝えていくんです。

一番大事なのは、どれだけ好きになってもらえるか。ひとりでも多くのユーザーに誇りに思ってもらうか、ということです。

ブランド力があると

ブランドに力が無いと、「安いから」「近いから」その商品を買う、その店を利用するということになってしまいます。つまり、機能で選ばれるわけです。しかし、機能で選ばれるということは、それだけ「浮気」されやすい、他社から真似されやすい、ということです。

ブランド力がつくと、機能だけでなく情緒や意味で選ばれるようになります。「好きになってもらう」「惚れてもらう」と多少のことではお客様は離れません。そのためには「らしさ」により、好きになってもらう必要があります。ブランドという言葉は「らしさ」と言い換えてもいいかも知れません。

「らしさ」を確立すると価格競争を一定程度回避できます。また、意外と大きいのは広告コストが削減できる、ということです。どういうことか言いますと、自分たちのブランドの軸・「らしさ」の軸が決まっていないと、提案されたものを鵜呑みにしてしまい、どんどんコストがかかってしまうんですね。軸が決まっていると、余計なものをつくらない。適したものを選択できる。ある会社の事例ですが、表現をブランドの世界観に合わせるように工夫した結果、広告宣伝費を数十パーセント削減させました。にもかかわらず、ブランド力は向上しました。

 

ブランドシンボルはただのマークじゃない

ブランドシンボルは評判をストックする器です。ただマークをつけるだけの話ではありません。マークにふさわしい商品、企業活動、過程があってはじめて単なるマークがブランドになるわけです。つまり、付加価値が生まれるのです。付加価値機能というのは消費者側からすると「ごひいき機能」。

ブランドは結局、相手の頭の中につくるものなので、一方的なものではありません。企業側50:お客様側50の法則。人間関係にたとえるとわかりやすいかもしれませんが、両思いの関係です。発信者側が想いとか志とかを伝える。受け手側が「いいね」ととらえる、その関係。お客様が期待しているのに、企業側が答えられていないとブランドは作られません。

バラバラのメッセージ

弱いブランドに共通している特徴があります。例えば、社長の言っていることと専務の言っていることが違っている、などということがよくあります。そうなるとどうなるか。「社長はこう言っていましたのでこう作りました。で、専務はこう言っていましたの、これを足しておきました」、などという具合に。社内のいろいろな考え方を折衷して商品などを作って、広告担当はそれを受けて、「じゃあ最後に本部長の意見も入れておきます」となってしまいます。商品のコンセプトも定まらない、メッセージもバラバラ、その結果、消費者はよくわからなくなる。これではお客様の頭の中に評判ができません。数億の広告宣伝費をかけても、お客様とブランドとの接点が揃っていないと、効果がありません。問題は個々の施策ではなくて、全体の統一性にあります。

わたしたちが一番最初にやることとして、役員会などにチラシから、広告、サイン、名刺、店舗など何から何まで写真にとって全部並べてみる。「きれい」なものもあれば「安さ」を売りにした表現もある。「高品質」などと謳っていても他のところでは全く逆の印象を与える制作物もある。言いたいことがバラバラで、そこでやっと「これでは何が言いたいか分からない。何とかしよう」という気持ちになる。

次に、意図的にブランドをつくる方法をお話します。それには3つのステップが必要です。枠組み(コンセプト)、事業活動、ブランドシンボル化です。

 

コンセプトは人間に例えると『心」に当たるかもしれません。企業の意志、お客様のニーズ、競合との差別性・独自性の三つの軸から考えます。3Cに近いですね。次に、そのコンセプトに基づいてブランドの考え方のコア・基本原則を決めます。

それは、ビジョン(ブランドの存在意義・目的)、ミッション(ビジョンを実現するために行うこと)、バリュー(お客様に伝える価値、あるいは、自分たちが大事にしている価値観)です。

ブランドのコンセプト、基本原則が決まったら、ブランドの人格・パーソナリティを決めます。ブランドを作るということは抽象的な概念を具体的に表していく作業のことです。パーソナリティに基づいて、具体的に見える形にブレークダウンしていく。色や写真、最近は匂いなども規定していきます。

 

ブランドとは頭の中に存在する確固たる評判です。お客様は様々なタッチポイントを通じて、ブランドの意味を頭の中に「貯金」していきます。そのためには、ブランドが約束するコンセプトを明確に定め、それがぶれないようにビジョン・ミッション・バリューを定める、このことをぜひ覚えておいていただきたいと思います。