第四回

人財と組織(午前)


今日お話しすることは大きくは3つです。テーマは人材知財をどう考えるか。

1つ目 当社でやってきたことをケース紹介
2つ目 サラリーマン生活40年のなかで、大事だなと思ったことの紹介
3つ目 自身の生の感覚をまとめたもの。のちほど、みなさんと意見をぶつけたい。

わたしは昭和22年生まれ、団塊世代の先頭をはしってきました。日立に入社して40年ほど、技術部で、見積・工程・納期管理など幅広い経験をさせてもらいました。途中からは海外事業にかなり力をいれるようになり、はじめは外国からこられた方のアテンド。昭和59年からは韓国の合弁会社設立に寄与し、本格的に経営支援もする事になりました。韓国で2社、中国で1社、台湾で1社、合弁会社設立に関与しました。みずから事業をおこそうと、シンガポールを中心にタイ、マレーシアで展開したんですが、どうしても価格面で勝てず、これは成功しませんでした。
2000年の春には、経済危機で経営が危うくなったある会社の株式保有を51%にする活動をしました。これは、マジョリティーをとるという事で、M&Aの第一歩でした。アメリカの西海岸で数々のM&Aに立ち会った経験が役にたちました。総じて個人的には満足のいく結果がだせたのですが、私の力ではなくかなり運の部分もあったと思います。日立ではじめての試みが多く、何をやればいいのか、何が正しいのかまったくわからない。そんな中で、運よく無事、帰還したということです。当時は帰国してすぐに日立システムアンドサービスに移ったので「帰ってきて、ご苦労さん」というものもありませんでした(笑)その後、今の会社で産業系やセキュリティ関係の部隊をみたり、企画部責任者として全社の方向付けに従事してきました。

人材に知財がついたのはなぜか。企画部門でしたので、特許の件数を管理していた。私がやる前は特許の提案件数を目標値にしていました。でも、提案件数を目標値にするのは見当違いだと思ったんです。目標を立てるうえで、最も大事な事。それは、自社の価値の根源となるものが何であるかを知り、それを守る事です。例えばまず著作権、つぎにビジネス特許——こういったものが目標値となるべきであり、武器なのではないか。でも、殆どの人が、その真意には気づいていない。会社が組織としてもっている潜在的な知恵があるはず。書き物になっているものもあればそうでないものもある。特定の人にとどまっているものもあれば流通しているものもある。どうやって、各人のパフォーマンスをあげるために、知識を共有していく仕組みをつくるのか。
この取り組みの延長で、某大学から共同研究の更なる進展の為に特任教授という立場を授かりました。授業もっているわけではありませんが。情報学環とは、学際を超えて複数の学問領域をつないでいこうというもので、メディアコンテンツの研究に参加している。百科事典の研究を通じて知財をいかにつくるかという観点から活動しています。

1つ目 当社でやってきたことをケース紹介

SEの会社ですから、people business。なのに、財務諸表上に「人」ってのらないんですね。あるとき、人的資産をBSとして評価したいと問いあわせた。結果は「できません」でした。でも、まだあきらめていない。なぜならば、インドの会社はずっとやっています。ディスカウント率を定めて、将来価値をいまの人がどれだけうみだすのか、その経済価値をBSにあらわす。ずーっとやっていると、継続は力で、効果がでてくるとおもいます。なぜ、人材知財に目をつけたか。

IT人材の分布です。グラフの真ん中をご覧いただきたいんですが、日本は英国と同じくらい。これがなにを表すのか。日本では避けられない問題、少子化(※1)。母数が少なくなってますから、人材確保が難しくなっている。しばらくすれば、インドが中国を抜いて人口がトップ になる。中国は一人っ子政策があって、マイナスにはいりつつある(※2)。日本は確実にへっていきますね。

※1
団塊の世代がぬけたあとほんとうにダメになったのか、残念ながら検証されていませんが
※2
ある本をよんでいると、CHINDIAという言葉がでてきた。CHINA+INDIAの造語で、両国の中流階級の人口がそれぞれ3.5億人。たすと7億人。手を組めば、すごい数の新興勢力ですね。忘れないうちに触れておきますが、日本人は言葉にたいするアレルギーが強い。そのアレルギー克服のひとつの解かもしれませんが、Globishという言葉がある。こちらはGlobal+English。同じ英語なんですけど、1500語くらいで色々と表現しようとする試み。問題は、意志が伝わってコミュニケーションがとれるかどうかということ。そこを勘違いしないでがんばればいいんですよね

どうやって人材を確保し、その価値をあげるための知財をどうするか。プライベートな話ですが、出身高校の校長が50年以上前に、「日本には資源はない。日本で資源化できるのは頭脳だけだ」ということをおっしゃっていた。今でもまったく正しいことだと思います。社内の知財って何なのか、これにとり組もう。必要になってくるから。私達は「企業知」とよんでいますが。企業知をどう形成し、どう循環・活用していくのか。

私見ですが、日本国内だけで人材を求めることには限界がある。海外から優秀な人に日本に入ってきてもらう必要がある。よく「日本に入ってくると雇用が無くなる」という人がいるが、世界的にはどんどん仕事が減ってきている。逃げ回っていても、中国やインドが日本国内に入ってくる可能性は高い(※3)。「憂え無ければ備え無し」になってるだけ。何も準備しなくていいと勝手に決め込んでいるだけなんですね。 政府もアジアの優秀な人材の確保に向けた場作りをやっている、という。が看護師の問題も、最後に日本語でぎゅっとしぼってしまう。非常に壁が高い。ほんとうにそれでいいんでしょうか、と。これからサポートをしてもらう立場の私たちにとっても困るんですね。ひとりに1人の介護士がとどかないと、家庭がボロボロにになってしまう。現実論として、ほんとうに無理なんですね。高齢化社会にたいして何を準備していくのか、これはあとで話をします。

※3
日本も以前、アメリカに大量に資本を投下して、大損してかえってきた歴史がありますね


だいたい1年間周期でかわります。人材資産の見える化ですね。組織パフォーマンス分析、そのあと、ハイパフォーマ人材の洗いだし。 ハイパフォーマ人材の要素分解しておもしろいことがわかった。活躍する人材の一番おおきな特徴は「人のつながり」、「人脈」だったんです。しっかりした社員は人脈をつくってるんですね。当然といえば当然だけど、なかなかできない。せっかくいるのに知り合えない。相手が嫌いで活用しようとしない。よく考えてみれば、もったいないですよね。あるとき、先輩に聞いたことがあります。
「どうしてあの嫌いな人とつきあえるんですか」
——どんなヤツでも自分にできないことを必ずもっている。人間的には尊敬できないけれど、仕事は尊敬できるんだよ
そう答えていらっしゃいました。人は嫌いでも、能力は能力としてどんどんとっていく。どんどんとっていってくださいよ、と。
「人」というものを突きつめて考えると、「人」とは知財であるという考え方になる。目に見えない人が生み出した知財を有機的に結びつけていくというプロジェクト、いますすめていますが手こずっていて。ある程度までいったので、そこまでの話をします。

人「財」。キャリアチャレンジやジョブマッチングの相談——少人数組織であればとうぜん自然にやっていることですね。


なんで、こんな分布になったのか。A氏とB氏の関係、同じ能力をもっているのかもしれない、運不運もあるかもしれない。どういう背景でこうなったのか。こうやって人と人との関係が見える化されてきている。


マネジメントと部下との関係。問題はいくつかのパターンにわけられたあと、どうアドバイスをするか。


はじめにハイパフォーマ定義をしようとしたが、えらんだ社員をハイパフォーマーか検証するすべがない。そこで、人事評価の高いひとをハイパフォーマと想定しました。自信も能力も高く、パフォーマンス人材を育てることのできる人材。これが60名いた。この構造と人数がいいかわるいかはわかりません。分析してわかったことは先述したとおり、入社後にどれだけ人脈を広げられるかが鍵であるというデータででてきました。


個人に集約される情報の関連づけ、それからどの切り口でみるか、これが難しいですね。たとえば、「クラウドの提案をしてくれといわれたけれど、だれに聞けばいいんだろう」となったとき。Know Who、Know How、Know Whatがわかるような仕組み。また、ブログやSNSを導入しました。がやってみて思ったのは、ブログやSNSは同じ価値観の人間をよびやすく、発言の強い人やグループがかたまってくる。同質の集団。会社として新たな発想を得る為には、自分と違う意見を聞く仕組みをつくること。多様性が担保されていない仕組みをつくってもしょうがないと感じました。状況を把握して、変えていく必要がある。


認識可能な形式知と認識不可能な形式知がある。認識不可能な形式知とはなにか。電子化されていない紙媒体やプロセスを書き留められていない瞬間知。どうやってつくったか——このプロセスが一番付加価値がある。なるだけ認識可能な形式知に変えていく必要がありますよね。

重要なのは真ん中の「構造化」の部分ですね。知の共有、体系化、可視化。具体的な試みとして大学の授業支援。ビジネスでは人によって解釈がかわってもいい。解釈の違いをわかるのが大事で、わかることで解釈ごとが線でつながり、気づきのチャンスがひろがる。数名であれば違いはわかりますが、数百・数千の「違い」をみようと思ったらとても人間の目ではわかりませんね。でも関係性をみることはできる。次のステップは、その関係性に時間軸をもたせて三次元化し、どうみせるか。これからの課題です。 「ひやりはっと」という考え方。毎日のように現場から改善の声があがってくるが、「で、なんなの?何が問題なの?」というのがわかんない。保守の会社でもみんなやっているが、本質的な問題がどこにあるのか、というところまで議論が届かない。関係づけとその結果の傾向分析、わたしたちがトライしていることです。


だんだん図が抽象化しているのは、自分の頭の思考の過程をなぞっているからなんですが(笑)。バックボーンの話。「知のコンシェルジェ」という商品。もとは百科事典の版権をかいとったとことからはじまった(※4)。フランスのある著名な哲学者から使いたいと要望もあります。何に使うのか——理解するという意味での批評、criticize, critiqueの為に使おうと検討中です。映像アーカイブの蓄積も議論にあがっているが、重要なのは蓄積というより、分類、評価、理解といった事なんですよね。

※4 昔、中国の皇帝は森羅万象に通じていないといけない、という考えから世の中のすべての書物を編纂する仕事がありました。そこに「分類」という考え方がうまれたんですね

AさんとBさんがつながり、やりたいことを発信すれば、人脈から専門外のことをむこうからいってきてくれる。気づきや疑問はできるだけ多くの多様な人脈とシェアすることがすごく大事。ひとりで思いつくことには限界があるわけで、いかに他人の知恵を使わせていただくのか。その連鎖が始まることによって、新しい今後の「知」が生まれてくるのではないか。
会社におきかえると、職制の壁にぶつかってくる。私がいっている人脈とは社内、同業他社は当然ですが、異業種の人との関係を含めており、その多様性が重要だという事です。
このように私達がとり組んできた人材知財のシステムについて。過去のものを合理的に整理し、未来にむけて活用するシステムだという認識があった。それが正しいのかといいう疑問を途中からもちました。予測市場という言葉を知っている方?
(挙手)
たとえば、今日の株価の終値をあてようとする方法とか。行動経済学、ニューロエコノミックスというのもでてきた。平均分布だけではダメだとする経済物理学、感情で地政学を考え直すという学問。理解できる可能性がみえる、といったほうがよいでしょうが。論理だけでなく、感覚、感情を含めてものをみる、という世界が間違いなく広がってきているんですね。
多様性を担保しつつ、考えを集約し答えをだしていく。「和解」ということばににていると思いますが。同一性が目的ではないですね。集約はするけれど、同化はしない。ひとつのものの見方しか見なくなると、組織のメリットを活かせなくなってしまいますから。

会社では、定性的なものと定量的なものは互換しにくい。「ITサービス業界のトップクラスになる」というビジョンをうちたてた。さて、どうやって定量目標におきかえるか。トップクラスになりたい。それはわかる。だけど、経営数値はどうしたらいいの?
トップたるには売り上げいくらで、従業員何名で、ひとりあたりの利益率がいくらで——数値はあるんですね。当然、トップクラスになるためには、ビジネスモデルもかわってくる。その為には、年間5000億かせがないといけない。売上高利益率は15%以上こえないといけない。だったら、うちの事業部はどうするか。この2年間は売り上げをとにかくあげるぞとか、利益率の高いサービスを重点拡販しようとか。定性目標を、時間軸を加味して定量目標におとすことはできるんですね。

ところが多くの企業は抽象的なメッセージにとどまってしまっている。抽象的で現場に即していないから、現場がトップのメッセージを切断していたりしませんか、これはみなさんに聞いてみたいですね。IT投資が無駄だ、ROIがわからないと言いながら、何がやりたいかを具体的にいえないという経営者もいる。考える気がなければ、見る気がなければ、戦略はたてられないし、みれない。なんてことを書いたのが上のスライドです。非常に厳しい言い方かもしれませんが・・・

以上のような形で企業知と群集知とあわせて、感覚の世界もとりこみながら、一連の流れをサポートできないか、という仕組みを考えてきました。